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考え事をしています。ほぼ読書メモ

ぱりぱりを読んだ話

瀧羽麻子「ぱりぱり」(文庫版)を読みました。

テンションが上がっていたので、昨日買って今日読み始めて今日のうちに読んでしまったこのテンションのまま感想を記します。

 

ぱりぱり (実業之日本社文庫)

ぱりぱり (実業之日本社文庫)

 

 

 

17歳でデビューした詩人、中埜菫(なかの・すみれ)という人物を取り巻く人々の物語です。1話から6話まで収録されています。瀧羽さんの小説は「うさぎパン」を読んだことがあり、こちらも一つの事象を取り巻く複数の人や事象について描かれています。

なんとなく本屋さんで「表紙がかわいいな」と思い手に取ったところ、この「うさぎパン」の作者であることがわかり、「うさぎパン」の淡々としているけれど温かみのある文章がとてもよかったので、まあはずれはないだろうと購入しました。

予想通り、淡々と、静かに、けれども人間的な湿っぽさと温かさをもって進むお話でした。

 

さて、本編と、中埜菫という人物についてです。(少々のネタバレをふくみます)

まず、この菫という詩人は、物語の語り部として出てくることはありません。彼女は常に他人によって語られる存在です。

菫(筆名はすみれ、とひらがな表記)は個性的というか、すこし変わった女の子です。小柄で色素の薄い感じの容姿、 ぼんやりした態度、一度集中してしまうと周囲を圧倒してしまう真剣さ…。

語り部たちはみな「普通」の人たちです。特別な才能があるわけではなく、周囲の人々や環境に気を使って生きている人たちが、まさしく浮世離れした菫とのかかわりで、自分について、菫について、今感じて、暮らしている世界について考えるようになっていきます。

考えるようになっていく、というか、なっていくことに菫はまったく気にしていません。人のこと気にしていない、というわけではなく、人に自分がどう思われるかを気にしていない彼女は、誰かが自分のせいで変わっていくことに興味を持っていません。

菫は自分の見えている世界を、自分の知っている言葉で、見たとおりに記します。それが「瑞々しい十代の感性でつづられた…」と称される「詩」として、世間に公開されていきます。処女作は非常に高く評価されたのに、2作目は酷評の嵐、そして3作目はどうなったかというと、そこまで話してしまうとネタバレなので、とりあえず読んだ方のお楽しみとします。

菫の処女作、そして2作目について、表題作でもある1話「ぱりぱり」で、菫の妹、桜は「どちらも菫の言葉であった」と述懐しています。2話「うたう迷子」で、すみれ(本編参照)の担当編集の北川は「すみれの詩が好きだった」という気持ちと「売りたい、たくさんの人に読んでほしい」気持ちが同時にあります。この二人は、詩人「中埜すみれ」と、生活者「中埜菫」両方の感性が同じであることをきちんと理解しています。菫についての導入部です。

3・4話では、詩人としての側面と、生活者としての側面それぞれを取り上げ、彼女がどういう風に周囲に影響しているかを説明しています。

5・6話で、菫そのものと同時に、彼女と同じ時間を生きていく人が、どう変わっていったかを、5話は成熟した菫を通して、6話は人間としてまだ形の定まっていない(あるいは、もう基本の出来上がった状態の)菫を通して、まとめています。

 

中埜すみれは架空の詩人です。そして彼女を取り巻く人々、環境もフィクションです。しかし、彼らの存在が何よりも人間らしいと感じるのは、二つ以上の感情が常にふらふらと渦巻いているからだと思いました。「うさぎパン」でもそうだったように、語り部たちはいらいらして、傷ついて、困っています。そして同じく、楽しくて、うれしくて、喜んでいます。それは、一見難しいように見える「中埜菫」が、一つの感性に従って自分らしく生きている単純さと、それが一人一人影響する場所、される場所が違う複雑さが同時にあることとつながっていると思います。

この物語は「中埜菫という詩人について」であり、「彼女の周囲に与えた影響について」であり、「ひととひととの関係について」書かれているお話でした。

 

なんだかとりとめのない文章になってしまった。

 

内容以外の話をします。文体はきれいな、というと抽象的ですが、口語体の落ち着いた文体です。作者が女性ということがあり、女性の語彙や話し方に違和感がなく、特別時代を象徴する固有名詞も出てこないので(せいぜい携帯電話が出てくるだけ)つじつまが合わないとか、古臭くてムキーとなることもありません。静かな気持ちで、ゆっくり読める本だと思います。難しい表現や特殊な言い回しもないので、さらっと読んでしまえるのではないでしょうか。

 

タイトルの「ぱりぱり」についてはきちんと1話で説明されているので、タイトルが気になった人も安心です。では、今日はこのあたりで失礼します。

 

 

うさぎパン (幻冬舎文庫)

うさぎパン (幻冬舎文庫)

 

 「ぱりぱり」が面白かったらこれも楽しく読めると思います。